前節の結果、パナソニック ワイルドナイツ(勝ち点48)、サントリーサンゴリアス(勝ち点47点)のリーグ戦4位以上が確定。上位4チームに進出権が与えられるプレーオフトーナメントへの出場が決定した。残る2チームは、東芝ブレイブルーパス(勝ち点45)、NECグリーンロケッツ(勝ち点41)が有力だが、波乱を起こすチームは出るのだろうか? 熾烈な残留争いをサバイブするのは?
ヒートアップするトップリーガーとしてのプライドをかけた戦いの一方で、来季の昇格をかけた「トップチャレンジ1」もスタートする(九州電力キューデンヴォルテクス-クボタスピアーズ、豊田自動織機シャトルズ-キヤノンイーグルス=29日 大阪花園ラグビー場)。
好調の近鉄ライナーズが、パナソニック ワイルドナイツに挑戦
東芝、NECのプレーオフ進出確定なるか?
前節、劇的な逆転勝ちで神戸製鋼を破り首位に立ったパナソニックは近鉄のチャレンジを受ける(写真は調子を上げるCTBフーリー) |
最終順位争いで、各チーム正念場を迎えているが、トップ4入りにわずかに可能性を残す近鉄ライナーズ(勝ち点34)が首位を走るパナソニック ワイルドナイツに挑む一戦(28日14時 大阪・近鉄花園ラグビ―場)は注目だろう。パナソニックは、前節、神戸製鋼コベルコスティーラーズを退けたが、接点で後手を踏み、終了間際のラストワンプレーで逆転するという綱渡りの勝利だった。NO8ホラニ龍コリニアシ、CTB霜村誠一という昨季までの攻守の要を怪我で欠き、新しい選手が入ることで、鉄壁の防御がときおり綻ぶのだ。
HO堀江翔太が言っていた。「ちょっとしたことなんですよ。メンバーが新しくなると、一人一人の力量をはかれずに、ズレが出る。試合の中で少しずつ調整していっているので、開幕当初とはチーム力が全然違うと思いますよ」。ポジティブな言葉だが、まだ完成形には遠いということだろう。ただし、神戸製鋼を逆転するまでのキックオフ、スクラムの圧力、ミスなくつなぎ続けた集中力は凄まじい。PR相馬朋和、LOダニエル・ヒーナン、FB田邉淳ら経験豊富な選手たちが要所で堅実に仕事をこなす。CTBジャック・フーリーも調子を上げており、現状の力で、好調・近鉄と、どんな力関係になるのか、興味深い対戦になる。
近鉄は前節でNTTコミュニケーションズシャイニングアークスとのシーソーゲームを制した。SO重光泰昌を軸に、ボールを左右に大きく動かし、FLタウファ統悦、WTBリコ・ギアら強いライナーを次々に走らせた。相手分析も的確で、NTTコミュニケーションズの防御が厚い密集周辺はあまり攻めなかった。パナソニックの防御を分析して、今度はどんなボールの動かし方をしてくるか。今季の近鉄の試合を見るときは、そんな楽しみもある。高忠伸キャプテンは「好ゲームになる期待感でいっぱいです」と王者への挑戦に自信を見せる。近鉄がボールを長く保持すれば、前節同様、パナソニックは大いに苦しめられることになるだろう。
マア・ノヌーがエンジン全開のリコーは、東芝を倒せるか
前節、その攻撃力を爆発させたのがリコーブラックラムズだった。NTTドコモレッドハリケーンズに対して、WTB横山伸一が快足を飛ばしてのトライで勢いに乗ると、計10トライを畳み掛けた。負傷欠場の河野好光に代わってSOに入ったタマティ・エリソン、CTBマア・ノヌーが素早いロングパスでボールを動かすことで、防御の間隔を広げさせ、攻めるスペースを作り出していた。特にノヌーは、試合を重ねるごとに調子を上げ、何度もラインブレイクしてチャンスを作ったほか、ゴール前に行くと、目の前にいるタックラーを簡単にかわしてトライを奪う個人技も披露。ノヌーを軸にしたスピーディーなBKラインは、対戦相手には脅威。河野も復帰してくれば、さらにBKラインの攻撃オプションは増える。
そのリコーの今節の対戦相手は、前節サントリーサンゴリアスの全勝を止めた東芝(29日14時 東京・秩父宮ラグビ―場)。
東芝としては、前節でサントリーを倒したようにFWでひたすら前に出たい。LO大野均、望月雄太、FLマイケル・リーチ、スティーブン・ベイツ、NO8豊田真人らが次々に防御の壁にぶつかる波状攻撃は迫力満点。リコーがどこまで耐えられるか。ベイツの突進に、リコーのタックラー、FL川上力也が刺さり、NO8ジェームス・ハスケルが瞬時にボールに絡んで奪取する。そんなシーンを想像するだけで胸が高鳴る。
リコーにとっては、勝てば、日本選手権出場権を争うワイルドカードへの進出権が確定するだけに、金星を獲得したいところ。東芝は勝ち点1を取った時点で4位以内が確定することになる。
また、前節コカ・コーラウエストレッドスパークスに苦戦した4位NECグリーンロケッツはNTTドコモレッドハリケーンズと対戦(28日14時 東京・秩父宮ラグビ―場)。こちらはプレーオフ進出確定のためには4トライ以上を取っての勝利(=勝ち点5)が必要となるだけに、いつも以上に攻撃的なラグビ―が見られるかもしれない。
もちろん、現在12位で熾烈な残留争いを続けるNTTドコモ(勝ち点9)が死に物狂いで向かってくることも間違いないだろう。
その他、自動降格圏内から抜け出したい13位コカ・コーラウエスト(勝ち点8)はトヨタ自動車ヴェルブリッツと(28日12時 大阪・近鉄花園ラグビ―場)、14位Honda HEAT(勝ち点8)はNTTコミュニケーションズと(28日12時 東京・秩父宮ラグビ―場)、それぞれ対戦する。
リコーは東芝から勝ち点を奪ってワイルドカードを確定させたいところ(写真はCTBノヌーと共に脅威のアタック力を支えるSO/FBエリソン)) |
サントリーを力でねじ伏せた東芝はリコーのアタック力を止めて、FW戦で前に出られるか? 勝ち点1でプレーオフ進出が確定する |
現在最下位のHondaはNTTコムから勝ち点を挙げて残留に望みをつなげたいところ(写真は日本代表でもあるWTB上田) |
FBムリアイナは前節リコー戦ではフル出場。FWにもインパクトプレーヤーの多いNTTドコモにとって、外国人選手の使い方も残留への鍵になる |
大西 将太郎
(近鉄ライナーズ CTB)
◇計算通り“故郷”花園で100試合出場達成。「いまラグビーがすごく楽しい」
大西将太郎(おおにし・しょうたろう)◎CTB。1978年11月18日生まれ。身長180cm、体重85kg。啓光学園→同志社大学→ワールド→ヤマハ発動機ジュビロ→近鉄ライナーズ。高校日本代表、関西代表、7人制日本代表、日本A代表、日本代表キャップ33 |
今季100試合出場を達成する選手が次々に生まれている。2012年1月9日に6人目の100試合達成となったのが、近鉄ライナーズの大西将太郎である。翌週はお休みし、第11節(対NTTコミュニケーションズシャイニングアークス)の101試合目では、キレ味鋭いステップでラインブレイクするなど元気なプレーが目についた。
「97試合目くらいの時に100試合を意識して、怪我をしないようにと、守りに入った自分がいました。それが、100試合後に1試合休めたことで、いろんなことを考えた。101試合目は新たな気持でスタートすることができました」
大西が守りに入ってしまったのには理由がある。100試合目をどうしても近鉄花園ラグビー場で迎えたかったのだ。大西は、花園からほど近い「石切」で生まれ育った。幼いころから自転車でラグビー場に通い、中学、高校時代を過ごした啓光学園でも何度も花園でプレーし、同志社大学では大学選手権で花園をほぼ満員にしたこともある。将太郎は、花園から育ったスターだった。ワールドに所属した時代のトップリーグ1試合目も花園だった。「うまいこと、計算通りいきましたね(笑)」
その後は、チームを渡り歩きながら試合に出続け、日本代表でも活躍。2007年ワールドカップのカナダ戦での同点ゴールは日本ラグビー史に刻まれる名場面だ。2009年から近鉄にやってきて3年目。現在6位につけるチームの主軸である。社会人11シーズン目のベテランだが、今季より指揮を執る前田隆介監督の下、「いま、ラグビーがすごく楽しい。チームとして戦えている気がします」とほほ笑む。
前ヘッドコーチのピーター・スローン氏の下では、SO、CTBの両方でプレーしたが、今季はCTBに固定され、SO重光泰昌と息の合ったプレーを見せている。激しいタックルは定評があるところだが、判断良く味方を走らせるプレーにも磨きがかかる。だが、おごりはない。「いまだに毎週、メンバー発表の火曜日はドキドキします。とにかく誰にも負けたくない。今はまだ、コーチではないし、僕は一選手として頑張る。もっともっと長くプレーしたいです」
次節は、首位のパナソニック ワイルドナイツへの挑戦だ。「上位チームに勝ってこそ、実力がついたと言えると思います。最高の準備をして臨みたいです」。相手が強ければ強いほど燃える男である。100試合以上トップリーグで戦ってきた経験が、この試合で生きるはずだ。
(text by Koichi Murakami)