第8節を終えた時点で、8戦全勝のサントリーサンゴリアス(勝ち点37)と、7勝1敗のパナソニック ワイルドナイツ(勝ち点35)が抜け出して"2強"を形成。3位東芝ブレイブルーパス(6勝2敗勝ち点31)、4位NECグリーンロケッツ(6勝2敗勝ち点30)、5位神戸製鋼コベルコスティーラーズ(5勝3敗勝ち点27)が続いて、トップ4をかけた激しい順位争いを繰り広げる。第9節は、そんな順位を巡る"サバイバルマッチ"が目白押しだ!
秩父宮の「港区ダービー」では、トライ王をかけたWTBの直接対決に注目!
再び秩父宮に登場するナドロ。怪物WTBの活躍もあって波に乗るNECの激しさが全勝サントリーに通用するのか。注目の一戦となる |
年が明けて迎える第9節は1月9日に全試合が組まれ、東京・秩父宮ラグビー場では、港区に本社を置くHonda HEAT、東芝ブレイブルーパス、サントリーサンゴリアス、NECグリーンロケッツの4チームが一堂に会して「港区ダービー」2試合が行われる。
第1試合(12時キックオフ)のHonda対東芝は、前節で神戸製鋼コベルコスティーラーズに19-22と力負けした東芝が、どんな戦いぶりを見せるかに注目。今季、開幕から快調に白星を重ねながら、リーグ中盤にNEC、神戸製鋼に星を落とした東芝だが、真っ向からスタンディングラグビーを貫く姿勢はブレていない。総失点も99点と唯一2桁台をキープ。防御の堅さも変わらない。小手先の修正ではなく、さらなるパワーアップで自分たちのラグビーに磨きをかける。
対するHondaは、前節でコカ・コーラウエストレッドスパークスを41-17と破って嬉しい初勝利を上げた。その勢いに乗って自分たちのペースに東芝を巻き込みたい。カギは、東芝の強力FWに対していかにボールをキープできるか。攻撃を継続できればチャンスは広がる。
14時キックオフの第2試合では、8戦全勝で首位を走るサントリーが、こちらも第3節から6連勝と好調の波に乗るNECの挑戦を受ける。
サントリーは、エディ・ジョーンズGM兼監督のもと2シーズン目に入った「アグレッシブ・アタッキング・ラグビー」に磨きがかかり、総得点はリーグ2位の323点(42トライ)と破壊力抜群。日和佐篤-トゥシ・ピシのHB団からガンガン外にボールを展開してスピードランナーを走らせる。前節のトヨタ自動車ヴェルブリッツ戦では、休養明けのWTB小野澤宏時が3トライを挙げて復活をアピール。FBにも有賀剛が戻って、陣容が整った。
対するNECは、身上の粘り強い防御でサントリーのアタックをゲインライン付近で止めることに活路を見いだす。今季は、WTBにネマニ・ナドロが入って得点力が大幅にアップ。SO/CTB田村優、LO村田毅ら新人もすっかりメンバーに定着して上り調子だが、不安はセットプレー。前節のNTTコミュニケーションズシャイニングアークス戦では、スクラム、ラインアウトともに課題を残した。相手のサントリーがセットプレーで厳しいプレッシャーをかけることが予想されるだけに、攻守の起点でどこまで耐えられるか。
もちろん、現在12トライでランキング1位を快走中のナドロと、8トライの成田秀悦、6トライの小野澤の、トライ王をかけた"直接対決"も大きな見所だ。
ノヌーを軸に、神戸の堅守を崩したいリコー
神戸市の神戸総合運動公園ユニバー記念陸上競技場では、神戸製鋼とリコーブラックラムズが4強入りをかけて激突する(14時キックオフ)。
東芝を破った5位の神戸製鋼がさらに勝ち星を伸ばしたいのは当然だが、前節でパナソニックワイルドナイツから1ポイントも取れずに敗れたリコー(8位 勝ち点20)は、ここで敗れれば4強入りが非常に厳しくなる。チームにフィットして機能してきたCTBマア・ノヌーを軸に、総失点157でリーグ3位の堅守を誇る神戸製鋼を崩したい。
勝ち点25で6位につけるヤマハ発動機ジュビロも、4強への生き残りをかけて群馬県・太田市総合運動公園陸上競技場に乗り込み、パナソニックに挑む(13時キックオフ)。
前節でNTTドコモレッドハリケーンズに49-41と防御に課題を残したが、この2週間でどこまで修正が施されたか。清宮克幸新監督の腕の見せ所だ。
サバイバルという点では、今季未勝利のコカ・コーラと、まだ1勝の福岡サニックスブルースがリーグ残留をかけて激突する「福岡ダービー」(福岡・レベルファイブスタジアム 14時キックオフ)にも注目したい。今季昇格したHondaとNTTドコモがすでに1勝しているだけに、コカ・コーラにとっては絶対に負けられない試合となる。
前節のトヨタ戦では隙のないラグビーを見せたサントリー。激しさを取り戻したNECにどう立ち向かうか(写真は攻守に貢献度抜群のFL佐々木) |
前節、コカ・コーラウエストに大勝して初白星を挙げたHondaは"港区ダービー"で東芝にチャレンジ(写真はユーティリティBK上田) |
トヨタ自動車、東芝に連勝して勢いに乗る神戸製鋼は地元にリコーを迎えての4強サバイバル戦(写真は今季はCTBで起用されているF. アンダーソン) |
ジャック・フーリー
(パナソニックワイルドナイツ CTB)
◇コミュニケーションがプレーの原動力
ジャック・フーリー◎CTB。1983年3月4日生まれ。身長190cm、体重105kg。モニュメント高校→ランドアフリカーン大学。ストーマーズ(スーパーラグビー)→パナソニックワイルドナイツ。南アフリカ代表キャップ69 |
W杯を戦い終えてトップリーグに参戦したトッププレーヤーのなかで、最後の最後、10月25日に登録されたのが、南アフリカ代表スプリングボクスのアウトサイドCTBジャック・フーリーだ。南アでのキャップ数は69。通算32トライは同国歴代3位という超大物が、突然“降臨”したのだ。日本代表に選ばれたLOジャスティン・アイブスが左膝の靱帯を負傷して今シーズンの復帰が絶望となったことを受けての、「代替選手の追加登録」という緊急処置だった。
デビューは12月4日。第5節のNTTドコモレッドハリケーンズ戦の後半7分にキャプテンの霜村誠一が負傷するや、すぐにピッチに入ってチームを引き締めた。
卓越した個人技で相手防御を切り裂くのはもちろん、柔らかなパスでチームにチャンスをもたらし、ピンチには声をからして指示を飛ばして防御ラインを引き締める。まだチームに合流して間もないはずなのに、何年もいっしょにプレーしているような存在感をいきなり漂わせた。
「フーリーはコミュニケーション能力が高いので、攻守ともにチームを引っ張ってくれる存在。練習中からよく声を出していますよ」と、中嶋則文監督も賛辞を惜しまない。
以後、キャプテンの代わりに背番号13を背負ってピッチに立ち、翌週のNTTコミュニケーションズシャイニングアークス戦では2トライの活躍。そして年末のリコーブラックラムズ戦では、あのマア・ノヌーと“トイメン対決”。世界最高峰のプレーぶりを存分に披露した。
この試合、リコーがノヌーを警戒するパナソニック防御の間隙を突いてSO河野好光が再三ラインブレイクを見せ、パナソニックはゴール前に釘付けにされる場面が多かったが、与えたトライはわずかに1。ゴールラインを背負った場面での集中力はフーリーの指示の賜物でもあった。
攻撃に転ずれば、前半13分にはこぼれ球を拾った状況で相手のマークを引きつけて背中越しのフリックパスを通し、FL西原忠佑の50メートル独走トライをアシスト。後半27分にも、タッチライン際の狭いスペースでボールに触るやいなやパスを放つ高いスキルを見せて、西原にこの日2つめのトライをプレゼントした。
「別にトリッキーなパスが得意なわけではないけど、毎日の練習でスペースのない状況を想定して練習したことが今日は役に立った。コミュニケーションの大切さはよくわかっているから、普段の練習からみんなが言うことを理解しようと心がけているし、みんなも僕の言うことを理解しようとしてくれる。日本語や英語の単語をピックアップするだけのコミュニケーションだけど、それほど難しくはないよ。ノヌーと対戦するのはいつも楽しみにしている。W杯では対戦できなかったけど、日本で対戦できたのは素晴らしいね」
試合後は群馬の空っ風に吹きさらされながらサインや記念撮影に応じて笑みを絶やさない。そんな姿が、逆に本物のプロフェッショナルの凄みを感じさせる。何しろ、ニュージーランドとともに「宗教はラグビー」と言われる南ア出身。ファンのサポートが大切なことを誰よりも理解しているのだ。
「日本のラグビーはスーパーラグビーよりも素早いし、思っていたよりもフィジカル。今は1試合1試合に集中して、毎日を楽しんでいる」
そう。シーズン終盤の栄冠よりも、今いる一瞬一瞬に没頭して全力を尽くす──それが、本物の本物たる所以なのである。
(text by Hiromitsu Nagata)