開幕節最大の注目カードだったパナソニック ワイルドナイツとサントリーサンゴリアスの対決は、サントリーが辛くも逃げ切った。僅差勝負が相次いだ開幕節に続いて、注目外国人選手が続々登場の第2節の行方は──。
台風の目となるのは、いったいどのチーム?
初戦でNTTコムに大勝して幸先いいスタートを切った、清宮新監督率いる新生ヤマハは台風の目になるか?(写真はSH矢富) |
開幕節は、前年の順位を基準に実力の拮抗した者同士が戦った。僅差勝負が多くなったのは必然だった。本当の力が分かり始めるのは、この2節からだ。開幕節を見ると、昨季の優勝チームであるパナソニック ワイルドナイツと準優勝のサントリーサンゴリアスが、リーグを引っ張っていくのは間違いない。この2強を脅かし、プレーオフ進出枠のトップ4争いに名乗りをあげるのはどこか、順位争いの台風の目となるのはどこかが、2節、3節あたりで見えてくるはずだ。
初戦でパナソニックを破ったサントリーは、初昇格のNTTドコモレッドハリケーンズの挑戦を受ける。サントリーのアグレッシブな攻撃は変わらず、NTTドコモのディフェンスがどこまで粘れるかがキーポイントだろう。パナソニックはNECグリーンロケッツとの対戦。初戦では前半の入りが悪く敗れたNECだが、後半は神戸製鋼をモールで押し込むなど力強さを見せた。元オールブラックスのCTBツイタヴァキもTL2年目でチームにフィットし、195cm、129kgの巨漢WTBナドロがインパクトプレーヤーとして登場すれば、会場を大いに沸かせるだろう。
各チームの新外国人選手がいつ出てくるかも興味深いところ。サントリーのFLジョージ・スミス(元オーストラリア代表)、パナソニックのSOマイク・デラーニ(元ニュージーランド代表)は、今季より加入ながらすでにチームにフィットしている。彼ら各国代表経験者の戦術眼、危機察知能力にもご注目を。
■トップ4を脅かす実力派の動向は?
2強に続いて、実力を見せつけた東芝ブレイブルーパスは、今節、コカ・コーラウエストレッドスパークスと戦う。トヨタ自動車ヴェルブリッツに対し、個々の選手が力強く前に出る「スタンディング・ラグビー」での快勝は優勝を狙うに十分な実力を示したといえるだろう。2節でも内容良く勝ち、勢いに乗れるか。
トップ4を脅かすチームという観点では、土曜日、秩父宮ラグビー場の第1試合で行われる、リコーブラックラムズ対ヤマハ発動機ジュビロ戦に注目したい。一昨年までサントリーを率いていた清宮克幸監督は明らかにヤマハ発動機を変えた。攻撃の起点となるスクラムを強化し、NO8モセ・トゥイアリイ、SH矢富勇毅、CTBマレ・サウ、FB五郎丸歩ら、やや伸び悩んでいた選手を再生させた。初戦を見ても、トゥイアリイ、サウらが整理された攻撃から何度も大きくゲインしていた。戦力を最大限に生かす清宮監督の特徴が早くも現れている。一方、リコーブラックラムズも、SOタマティ・エリソンらの活躍で難敵の福岡サニックスブルースを退けた。ワールドカップで優勝したオールブラックスから突破力抜群のCTBマア・ノヌーが加入しており、彼が出てくればさらに戦力は大幅にアップする。どちらが、トップ4を脅かす存在なのか、証明する試合になる。
この試合で注目したいのが「スクラム」だ。10月23日に終了した第7回ワールドカップでもスクラムが大きくクローズアップされた。回数こそ、一試合に10回ほどなのだが、その優劣が試合に直結してしまう大切な起点。スクラムで優位にたてば、その後の攻撃が楽になるし、押されれば、攻撃が窮屈になるだけでなく、反則をとられてしまうと、PG3点に直結してしまう。ヤマハ発動機の清宮監督はスクラムを重視する指導で知られ、この試合でもプレッシャーをかけていくはず。リコーも、日本A代表で強力スクラムが売りのPR長江有祐がいる。もちろん、スクラムは8人で組むもので、一人だけの力ではどうにもならないのだが、最前列の駆け引き、後ろの押し、スクラムを軸にした攻撃などなど注目点は多い。勝敗を左右する大きなポイントになりそうだ。
前に出る圧力でトヨタを圧倒した東芝は秩父宮でコカ・コーラウエストと対戦(写真はトヨタ戦で1トライ、4ゴール、1PGを挙げたSOヒル) |
開幕ゲームのサニックス戦では指令塔の位置に入り、チームを勝利に導く活躍を見せたリコーSOエリソン |
昇格組同士の対戦となった開幕節でホンダと引き分けたNTTドコモは、サントリーに挑戦(写真は元日本代表FL/NO8箕内) |
W杯優勝を果たしたオールブラックスメンバーのLOソーンが早くもサニックスの先発メンバー入り(6日、NTTコムーサニックス戦=新潟) |
日和佐 篤
(サントリーサンゴリアス SH)
◇W杯で世界が認めたパスさばき
日和佐篤(ひわさ・あつし)◎1987年5月22日、兵庫県生まれ。身長166cm、体重72kg。兵庫ラグビースクール→報徳学園→法政大学→サントリーサンゴリアス。日本代表キャップ10 |
昨季、トップリーグ(TL)デビューを果たすと、どんな難しいボールも素早くさばき、瞬く間にチームの軸となった。シーズン終了後は、栄えある新人賞を獲得し、ベストフィフティーンとのダブル受賞。春に日本代表入りを果たすと、アジア五カ国対抗でも新人賞(HSBC Asian 5 Nations Emerging Player of the Year)の表彰を受け、国の内外で高い評価を受けた。受賞時、「日本ラグビー、更にはアジアラグビー発展のために、いいプレーをしっかりと続けていきたい。また、アジア代表として、ラグビーワールドカップのメンバーに選ばれるように頑張ります」とコメント。その言葉通り、9月に開幕したワールドカップに出場し、オールブラックス戦では大敗のなか奮闘し、大男たちの間をすり抜けて大幅ゲイン。気の強さも見せてラグビー王国でも高い評価を得た。
W杯のプログラムなど、海外の記者が日和佐を紹介するときに使うのが、「元オーストラリア代表ジョージ・グレーガンに学び、彼をリザーブ(控え)席に追いやった男」だ。世界最多のキャップ数「139」を誇る名SHを引き合いに出すのが、日和佐の能力をもっともわかりやすく表現できるわけだ。ラグビー王国ニュージーランドの全国紙である「ヘラルド」の日曜版に、「プールマッチで敗退した中でスーパーラグビーで見てみたい10選手」という特集があった。スーパーラグビーと言えば、NZ、オーストラリア、南アフリカの南半球三強国から各5チームずつ参加する世界最高峰のプロクラブ選手権だ。そこには、カナダやサモアなどのトップ選手に交じって日和佐の名前があった。ラグビー担当記者の選出だが、「すべてのスキルがスーパーラグビークラス」と絶賛されていた。
出身は兵庫県。少年時代にサントリーの永友洋司の軽やかなパスさばきを見たことが、のちのプレースタイルを決定づけた。報徳学園の先輩でもある田中澄憲が加入したサントリーを応援し、念願かなってそのチームに入ることができた。そして、タイミングよくジョージ・グレーガンがチームメイトとなり、この秋は、現在世界最高のSHと言われる南アフリカ代表のフーリー・デュプレアが加入した。「吸収できるものは、なんでも吸収したい」。おそらく、彼はいま世界で一番幸せなSHと言えるだろう。
サントリーの波状攻撃は日和佐のパスから始まる。ただ素早いだけではなく、ディフェンスの出方を見ながらパスのテンポを変えるあたりにもご注目を。いつか彼がスーパーラグビーで活躍したとき、海外のラグビーファンに「彼なら若い時から知っているよ。グレーガンとデュプレアに学んで、ずいぶん上手くなったなぁ」なんて語れるように、じっくり見ておこう。