残り2節と大詰めを迎えたトップリーグは、前節で4強が確定。三洋電機ワイルドナイツ(勝ち点49=以下数字は勝ち点)を筆頭に、東芝ブレイブルーパス(47)、サントリーサンゴリアス(45)、トヨタ自動車ヴェルブリッツ(45)の4チームが、プレーオフ進出を決めた。
一方、残留をかけた熾烈な戦いは、ヤマハ発動機ジュビロが豊田自動織機シャトルズと壮絶な死闘の末に34-33と劇的な逆転勝利を収めて9位へ浮上。敗れた豊田自動織機は2ポイントを獲得したものの、いよいよ土俵際に追い詰められた。
コカ・コーラウエストレッドスパークスもクボタスピアーズを28-21と破って5ポイントを獲得。通算ポイントを19として、あと2ポイントで自動降格を免れる11位へと浮上した。
豪華絢爛のバックス対決に注目!
クリスマス対決のイチオシは、サントリーVS神戸製鋼
レギュラーシーズン最初で最後の秩父宮登場となる近鉄はギア(中央)、イエロメ(左)のCTBコンビを中心とする破壊力でワイルドカード進出を決めたい |
25日の"クリスマス決戦"6試合のなかでは、サントリーサンゴリアス対神戸製鋼コベルコスティーラーズ(ホームズスタジアム神戸 13時キックオフ)が最注目カードだ。
ジャパンの両翼を担った神戸CTB大畑大介とサントリーWTB小野澤宏時がグラウンドで直接対決するのは、もしかするとこれが最後となるかもしれない。それだけでも必見。2人は直接のトイメン同士ではないが、どちらも幅広い運動量で積極的にボールに絡むプレーヤー。後々まで伝説となるような1対1の抜き合いの出現に期待しよう。
また、ライアン・ニコラスと平浩二の現・日本代表CTBコンビと、同じく日本代表の今村雄太・大畑大介のCTBコンビが激突するのも見所の一つ。
神戸ピーター・グラントvsサントリーのトゥシ・ピシの南アvsNZ・SO対決と合わせて、クリスマスに相応しい豪華絢爛なバックス勝負が繰り広げられるだろう。
神戸は、2節続けて東芝、三洋と対戦して連敗したものの、いずれも最後まで崩れない緊迫した展開に持ち込んでいる。
三洋戦の後で苑田右二ヘッドコーチも「2試合続けて上位チームからでもトライを取れることが証明された」と手応えを話したが、それに加えて「フェイズを重ねて攻めて人数が少なくなったところでミスが起こり、そのターンオーバーからトライを奪われたのが悔しい」ともコメント。ハンドリング・エラーなどのミスに対するリアクションを課題にあげた。
三洋を破って絶好調のサントリーとの対戦だけにミスを恐れぬ果敢なチャレンジが不可欠だが、どこまで意識高くミスをカバーできるかがゲームの帰趨を決めるだろう。
関東初登場の近鉄のパフォーマンスに注目
4強決定を受けてリーグの順位争いは、日本選手権出場をかけたワイルドカードトーナメントの出場資格10位以内を巡る争いに焦点が移ってきた。
なかでも25日秩父宮ラグビー場の第2試合(14時キックオフ)、NECグリーンロケッツ(10位)対近鉄ライナーズ(8位)は、今節唯一の"5位以下グループ"内での直接対決。近鉄が5ポイントを獲得すれば勝ち点を31に伸ばして10位以内が確定。ワイルドカード出場が決まる。
NECは、この試合で5ポイントを獲得しても、コカ・コーラWが今節と来節に大量得点を挙げて連勝すれば勝ち点29となるためワイルドカード出場決定とはならないが、それでも優位に立つのは間違いない。
両者ともに絶対に負けられない、ガチンコの真剣勝負なのだ。
今季の近鉄は、第4節に神戸を8-22の劣勢から大逆転で破り、7節にもトヨタから21-17の逆転勝利を納めるなどリーグを盛り上げている。しかし、なんとこの試合が関東地方での最初で最後のゲーム。前節は欠場したが、関東初登場のCTBリコ・ギアのプレーはファン必見だ。
一戦ごとに力をつけている豊田自動織機はコカ・コーラウエストを破って残留に望みをつなぎたいところ。NECも近鉄に敗れると残留に黄色信号が‥‥ |
前節コカ・コーラウエストに競り負け、ガックリ肩を落とすクボタの選手たち。もう1敗もできない状況下、奇跡の残留に向けてまずはトヨタにチャレンジする |
地元での試合が続く神戸製鋼は、三洋を破った後、サニックスも退けて勢いに乗るサントリーを迎え撃つ。大畑(写真)対小野澤の直接対決が見られるラストチャンス?
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山田章仁
(三洋電機ワイルドナイツ)
◇新旧交代を目指す"ビッグマウス"
山田章仁(やまだあきひと)◎小倉高校→慶應義塾大学→ホンダヒート→三洋電機ワイルドナイツ。WTB。181cm、85kg。25歳。 |
「大畑さんへの注目を全部奪ってやろうと思っていた」
19日、アウェーのホームズスタジアム神戸で今季2度目のマン・オブ・ザ・マッチに選ばれた三洋電機ワイルドナイツのWTB山田章仁は、きっぱりと試合後に言い切った。
「大畑さん」が、今季限りでの引退を表明してこの日も観客動員に一役買った神戸製鋼コベルコスティーラーズの大畑大介を指すのは言うまでもない。
慶應義塾大学時代に独特の走りで数々の劇的なトライを挙げて一躍"人気者"になり、卒業後はホンダヒートに。ホンダがトップウェストAリーグに降格した今季は、三洋に移籍した。
日本選手権を3連覇しながら未だにトップリーグでの優勝がない名門を、優勝へと押し上げるための新戦力──そんなポジションを、山田は今着実にものにしつつあるのだ。
今季は10試合に出場して9トライ。ランキングでトップを走る小野澤宏時(サントリーサンゴリアス)の13に4差ながら、2位グループにつけている。
神戸戦では17-17で迎えた後半17分に、途中出場の入江順和のキックを追走。神戸の選手をスピードで振り切りながら慎重にボールを拾い上げてトライを奪い、7分後にはFL劉永男のパスを受けて抜け出し、自ら上げたキックをインゴールで押さえた。
いずれも、全力疾走しながら微妙に変化するバウンドを読む高度なスキルが要求されるプレー。山田の向上心が凝縮した連続トライだった。
「本当はもう1つトライを取って、勝利を確実にしたかった。先週の(敗れた)サントリーサンゴリアス戦でも、もう1つトライを取っていれば勝っていた。あの試合が自分の仕事を再確認するきっかけになりましたね」
これまで山田は日本代表に選ばれることがなかった。ディフェンスの弱さが課題とされていたからだ。しかし、三洋ではタックルをしない選手は試合に出られない。「相手にしっかり身体を当てろ」とアドバイスされて、今ではタックルにブレイクダウンに、文字通り身体を張る。
それも、目標があるからだ。
「ラグビーをやっている以上、当然試合に出たいし、ジャパンに選ばれてW杯にも出場したい。そのためには毎試合自分のスタンダードを上げて、本当に自分がアピールしたいプレーをアピールできるようにしたい。目標は、ランプレーで世界に通じる選手になることですね。ラグビー界に新旧交代を見せつける気持ちで今はプレーしています」
胸を張ってそう言い切った山田は、大畑と握手を交わして競技場を後にした。
プレーオフトーナメントから日本選手権へと続く決勝ラウンド。
それが、山田が目指す新旧交代劇のステージだ。
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北川俊澄
(トヨタ自動車ヴェルブリッツ)
◇向上心を生んだ"ネガティブ・シンキング"
北川俊澄(きたがわとしずみ)◎伏見工業高校→関東学院大学→トヨタ自動車ヴェルブリッツ。LO。195cm、110kg。29歳。 |
前節終了時点で4位以上を確定し、プレーオフトーナメント進出を決めたトヨタ自動車ヴェルブリッツが好調だ。朽木泰博新監督のもと、「人が動くことでボールが動く」ラグビーに取り組み、その成果を着々と出している。
そんなチームにあって、黙々と密集戦で汗を流し、スクラムやラインアウトといった攻守の起点を安定させているのが、入社8年目のLO北川俊澄だ。
「確かにチームは、いろいろなパターンを使えるようになって攻撃の幅が増えたと思います。でも、豊田自動織機シャトルズ戦(11日)もNECグリーンロケッツ戦(18日)も、試合の入りが悪くて立ち上がりにブレイクダウンが安定しなかった。そこで劣勢になると攻められないところはまだまだ。前に出る力とサポートの速さをもっと磨かないと、プレーオフで勝つのは難しいでしょう」
昨シーズンは、ただ1人サポート数が400回を超えて堂々のランキング1位に。それだけにサポートに対しての注文が厳しくなる。
日本代表キャップも31まで積み上げて、ジョン・カーワン(JK)ヘッドコーチの信頼も厚い。
今季ジャパンXVで対戦したノースハーバー戦も含めて10試合中9試合に出場。そのうち7試合は背番号5をつけてのスターターだった。
当然、来年のW杯日本代表の有力候補でもあるが……。
「いやいや。W杯を考えるともっといいプレーをしたいけど、まだ全然満足できる水準でプレーできてない。チームに関しても自分のプレーに関しても、ビデオを見ると改善点ばかり浮かぶんです(笑)」
自称"ネガティブ"。
日本代表ではJK、トヨタではスティーブン・タイナマンと南半球ラグビー界のVIPたちからコーチングを受けながら、北川は、彼らから「Good!」と言われても「誉めてくれることを鵜呑みにできない」と言う。
「だから、いいところを残して悪いところを直すように心がけているんです」
4日の東芝ブレイブルーパス戦で、トヨタは34-28とリードした終了直前にPGを選択。SOオレニ・アイイのキックが外れた上に東芝にカウンターアタックを仕掛けられて、あわや逆転負けのピンチを迎えた。
この判断はチーム内で議論となったが、北川の意見は「タッチに蹴り出してモールからトライを狙えば、成功すれば東芝の勝ち点を減らせるし、失敗してもリスクが少ない」というもの。それにはチームメイトも唸ったという。
つまり、客観的に自分を見つめる習性は、北川自身の向上心の源であるばかりではなく、ゲームを客観的に検証して戦術眼を磨く習慣も生んだ。ネガティブな考えを、身体を張って一つひとつ打ち消す北川のアプローチこそが、実は本当の意味でポジティブなのである。