第10節、全勝を守っていた三洋電機ワイルドナイツがサントリーサンゴリアスに敗れた。これでトップ4の勝ち点差がぐっと縮まった。依然、三洋電機が首位の座を守っているが、4チームが5点差以内にひしめいており、プレーオフの組み合わせにあれこれ思いを巡らせることになった。日本選手権の出場権を争うワイルドカードトーナメントに出場する5位から10位の争いも熾烈だ。10位のヤマハ発動機ジュビロと11位のNTTコミュニケーションズシャイニングアークスの勝ち点差はわずか「2」。11位、12位は入替戦、13位、14位は自動降格。このあたりの残留争いも最終局面を迎えている。第11節のみどころを紹介していこう。
三洋電機ピンチ? 後がない神戸製鋼が意地を見せるか
前節サントリーに敗れて全勝がストップした三洋は神戸と対戦。主力に故障者が多いがWTB山田(写真)など若手の力で首位をキープしたい |
10節で東芝ブレイブルーパスに惜敗した神戸製鋼コベルコスティーラーズは、ホームの兵庫県ホームズスタジアムで三洋電機ワイルドナイツを迎え撃つ。神戸製鋼の勝ち点は現在「29」。4位のトヨタ自動車ヴェルブリッツの「40」とは、9点差あり、残る3試合でこれを逆転するには、全勝して上位陣の結果を待つしかない状況だ。ただ、東芝戦で紙一重の戦いを見せたように、今季より加入のSOピーター・グラントがチームにフィットし始め、チーム全体にディフェンスのリアクションも良くなっている。三洋電機とも好勝負が期待できる。
三洋電機は、前節、大黒柱のSOトニー・ブラウン、攻守の要であるCTB霜村誠一キャプテン、FWの核であるLOダニエル・ヒーナン、NO8ホラニ龍コリニアシ、トライゲッターのWTB北川智規ら、主力が次々に負傷退場するアクシデントに見舞われた。飯島均監督は、「若い選手が慣れないポジションでよくやってくれた」と、控え選手の健闘を称え、彼らがタイトな試合を経験できたことを歓迎したが、主力選手の不在が敗戦を招いたことは確か。負傷者がどれくらい万全な状態で復帰できるかが神戸製鋼戦では鍵になる。
トップリーグ初の沖縄開催となるサントリーサンゴリアス(3位)対福岡サニックスブルース(5位)も注目だ。ともに徹底したアタッキングラグビーだが、そのスタイルは異なっている。サントリーは、攻撃の起点になるスクラム、ラインアウトを安定させ、ブレイクダウン(ボール争奪局面)で激しく戦いながら、ディフェンスを中央に集めて外側のスペースを攻め落とすスタイル。福岡サニックスは、セットプレーにはさほどこだわらず、大きくボールを動かし、ディフェンスを横に広がらせて、その間隙を突くスタイル。どちらが主導権を握ってボールを動かすのかは興味深い。「今季はトップ4の一角を崩したい」とシーズン前から話していた藤井雄一郎監督も気合いが入っている。
残留争いの大一番は、近鉄花園ラグビー場にて
クボタスピアーズは、10節でリコーブラックラムズに敗れ、自動降格枠の13位に甘んじている。次節は12位のコカ・コーラウエストレッドスパークスとの対戦。前節、ヤマハ発動機ジュビロに辛勝し、残留争いから抜け出してワイルドカード出場の10位をうかがうコカ・コーラをそのまま走らせるのか、クボタが止めるのか。クボタは後半戦になって、今季、鳴り物入りで加入したオーストラリア代表LOヒュー・マクメニマンが復帰した。ボールが横に動くだけで縦に防御を切り裂けない戦いが続いたチームにとって、身長の2mのサイズで豪快に走り、器用にパスするマクメニマンは待望の存在。チーム力は上向きだ。
9位のリコーブラックラムズと11位のNTTコミュニケーションズシャイニングアークス戦も僅差勝負になりそうだ。リコーのスティーブン・ラーカムと、NTTコムのマーク・ジェラードという元オーストラリア代表対決が実現すれば、海外ラグビーファンにはたまらないマッチアップになる。そして、最下位の豊田自動織機シャトルズは、ヤマハ発動機ジュビロへのチャレンジ。徐々にトップリーグに慣れてきており、前節では、トヨタ自動車ヴェルブリッツから、前半22-12というリードを奪っている。
どの試合も、後がないチームの凄まじい戦いになりそうだ。
レギュラーシーズンで大畑大介のプレーが見られるチャンスもあと3節のみ。神戸は地元で三洋を倒してプレーオフ進出に望みをつなぎたい |
三洋を破って勢いに乗るサントリーはサニックスと対戦。攻撃ラグビーの応酬を制し、4強の座を確かなものにできるか(写真はNO8竹本主将) |
FLマクメニマンも復帰したクボタにとって、外国人プレーヤーの使い方もトップリーグ残留へのポイントなりそうだ(写真はFLヒッキー) |
畠山健介
(サントリーサンゴリアス)
◇プロップのイメージ変えるオールラウンダー
畠山健介(はたけやま・けんすけ)◎仙台育英高校→早稲田大学→サントリーサンゴリアス。PR。1985年8月2日生まれ。178cm、116kg。日本代表キャップ16 |
サントリー入りして3年目。運動能力が高く、フランカー並の走力でフィールドを所狭しと駆け回り、ゴールラインに迫れば、思い切りのいい突進でトライも奪ってみせる。そのラグビーセンスの良さは、仙台育英高校、早稲田大学時代から目立っていたが、セットプレーへのこだわりが強いサントリーで、スクラムワークにも磨きをかけ、日本を代表するプロップに成長した。
第10節の三洋電機ワイルドナイツ戦勝利にも貢献。
「僕、サントリーに入って初めて三洋に勝ったんですよ。嬉しかったなぁ」
三洋電機のフロントローには、元日本代表のベテラン相馬朋和、現日本代表でしのぎをけずる川俣直樹、そして日本代表では2番と3番でスクラムを組むHO堀江翔太がいた。「やっぱり、一緒にやっている選手だからこそ負けたくない。でもサントリーのスクラム、悪くなかったと思います」
自信も垣間見えるコメントだが、トップリーグでは2年連続でベストフィフティーン賞を受賞し、日本代表にも定着しているのだから、そうでなくては困る。
「来年のワールドカップは楽しみ。でも、その前に日本代表に選ばれないと。JK(ジョン・カーワンヘッドコーチ)は、試合ごとに波のある選手はダメだという。僕も安泰だとは思っていません。この後のトップリーグでも波のないプレーをしていかないと」
スクラム最前列で体を張る「縁の下の力持ち」がプロップの代名詞だったが、畠山はパスもする、独走もする、ステップも切るオールラウンダー。次節で対戦する福岡サニックスブルースは、グラウンドを大きく使って攻めてくる。だとすればサントリーにも必ず広いスペースでボールを持つ機会が出てくる。そのとき、畠山がどんなプレーを見せるのか、卓越したラグビーセンスにも注目である。
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小野晃征
(福岡サニックスブルース)
◇日本生まれ、ニュージーランド育ち。伸び盛りのゲームメイカー
小野晃征(おの・こうせい)◎クライストチャーチボーイズ高校。SO。1987年4月17日生まれ。171cm、83kg。日本代表キャップ5 |
コウセイがいい。10節終了時点で5位につける福岡サニックスブルースのゲームメイカーの評判は試合を重ねるごとに高まっている。ボールを左右に大きく動かしながら、ディフェンスの間隙をつくサニックスの攻撃スタイルのなかで、小野は扇の要だ。パス、キック、ランの選択を的確にこなしてチームメイトを走らせる動きは、円熟味さえ感じさせる。序盤戦は主にインサイドCTBでプレー。藤井雄一郎監督も、「誰がSOに入っても、コウセイがコントロールしてくれます」と全幅の信頼を置いている。
10節の近鉄ライナーズ戦ではSOでプレーし、シリバ・アヒオ、タファイ・イオアサという両CTBを巧みに操り、プレースキッカーとしても効果的な時間帯に堅実にPGを決めてチームを勝利に導いた。
小野晃征は名古屋生まれたが、物心つかないうちに家族とともにニュージーランド(NZ)へ渡った。NZ南島のクライストチャーチで5歳からラグビーを始め、数々のオールブラックスを輩出する名門クライストチャーチボーイズハイスクールに進んだ。U19カンタベリー代表にも選出された経歴に、日本代表のジョン・カーワンヘッドコーチが白羽の矢を立てたのは2007年。大学での勉強を中断して来日した。その年のワールドカップに20歳で出場。オーストラリア代表戦では距離のあるPGを決める度胸の良さも見せている。ここしばらくは日本代表から離れているが、サニックスで成長しているのは間違いない。
NZでは、ゲームメイカーはゲームを落ち着かせていくのが仕事。しかし、体が小さな選手が多いサニックスでは、相手を混乱させるためにNZでは考えられないテンポでボールを動かす。「クレージーだと思うことはありますよ」と語るが、サニックスには必要なスタイルとして外国人選手達に説明するのも彼の仕事だ。「走り勝つラグビー」の中で、今週末もコウセイの動きからは目が離せない。