残りあと4節となったトップリーグは、順位争いがますます熾烈を極める。注目は何と言ってもプレーオフ進出をかけた上位チーム同士の直接対決。ファン必見の好カードを展望しよう。
第10節の見所はズバリ「4強決定戦」第1ラウンド
レギュラーシーズン最初で最後の秩父宮登場の大畑大介も見逃すな!
レギュラーシーズンでは神戸にとって今季最初で最後の秩父宮でのゲーム。大畑の勇姿をこの目に焼き付けるラストチャンス? |
11日は、トップリーグの"ビッグ・サタデー"だ。
現在の1位から5位までのなかでトヨタ自動車ヴェルブリッツを除く4チームが、すべて秩父宮ラグビー場に集結。12時キックオフの東芝ブレイブルーパス対神戸製鋼コベルコスティーラーズ、14時キックオフの三洋電機ワイルドナイツ対サントリーサンゴリアスと、プレーオフ進出をかけて強豪同士が激突する。
しかも、神戸がレギュラーシーズンで秩父宮に登場するのはこの日が最初で最後。今季限りで引退を表明している大畑大介の勇姿を、しっかりと目に焼き付ける絶好のチャンスでもある。
当日は「大畑大介ファイナル」と名づけられて、イベントも各種用意されている。すべてのラグビーファン必見だ。
ゲームの見所としては、前節でトヨタに敗れた東芝が、2週続けて勝ち点5をマークして上昇気流に乗った神戸の攻撃力をどう抑えるかに注目したい。
神戸は、SOピーター・グラント、CTB今村雄太、そして大畑と並ぶフロントスリーが仕掛け、FB正面健司が自在にスペースに走り込んでくる。東芝にすれば、トヨタ戦でほころびを見せた防御網の整備が勝利には不可欠だ。
三洋対サントリーも、日を追うごとに破壊力を増すサントリーのアタッキング・ラグビーを、三洋ディフェンスがどう封じ込めるかが見所。ブレイクダウンに人数をかけなくとも個々の力でターンオーバーが可能な怪力揃いの三洋FWに、サントリーFWがどこまで機動力で対抗できるか。攻め込んだところで三洋にターンオーバーを許すようだと、サントリーの不利は否めない。
個人的には、サントリーFLトッド・クレバーの爆発的な走力が、三洋の力強い個々のタックルにどこまで通じるかに興味を持っている。個人の力で三洋防御に大きな穴をうがつことができれば、局面ががらりと変わって、流れがサントリーに傾くことだって考えられるからだ。
こちらも熱い! 残留争い
12日に徳島で行われる福岡サニックスブルース対近鉄ライナーズ(徳島市球技場 13時キックオフ)戦も、6位対7位の熾烈な順位争い。サニックスがここで5ポイント獲得すれば神戸の成績次第で5位浮上の可能性もあり、なんとしても4トライ以上を獲得したい。
ただ、前週でNTTコミュニケーションズシャイニングアークスに38失点と防御に課題を残しており、近鉄にとっても6位浮上のチャンス。今季、上位に踏みとどまってリーグを盛り上げた立役者同士の対戦は、華々しいトライの奪い合いになりそうだ。
一方、自動降格圏内からの脱出を目指すコカ・コーラウエストレッドスパークスは12日にヤマハ発動機ジュビロと(佐賀・ベストアメニティスタジアム 13時キックオフ)、クボタスピアーズは11日にリコーブラックラムズと(山梨・小瀬スポーツ公園陸上競技場 13時キックオフ)、それぞれ対戦する。
どちらも地力のあるチームながら今季は勝ち星に恵まれないが、来季もトップリーグに残留するためにはもはや負けられない。ヤマハは前週クボタに競り勝ち、リコーも2節続けて敗れたもののトヨタや神戸からボーナスポイントを獲得する健闘ぶりを見せている。どちらも決して戦いやすい相手ではないが、残留への意志をバネにした両チームの奮起に期待しよう。
前節のトヨタ戦では淡白なDFが致命傷となった東芝だが、調子を上げている神戸製鋼のアタックを止められるか? |
今季隙のないDFを続ける三洋(写真はサニックスWTBヘスケスを止めるPR相馬)がサントリーの攻撃ラグビーの挑戦を受ける |
超アタッキングラグビーで三洋にチャレンジするサントリーとしてはFW陣の踏ん張りも鍵を握りそうだ(写真はLO真壁) |
上野隆太
(トヨタ自動車ヴェルブリッツ)
◇日々是決戦で課題克服
上野隆太(うえのりゅうた)◎東海大仰星高校→明治大学→トヨタ自動車ヴェルブリッツ。HO。174cm、105kg。 |
現在首位の三洋電機ワイルドナイツから5位の神戸製鋼コベルコスティーラーズまで、プレーオフ進出をかけて激しく争う上位5強。4日に2位の東芝ブレイブルーパスを破って4強入りをぐぐっとたぐり寄せたトヨタ自動車ヴェルブリッツのHOが上野隆太だ。
この5チームの2番のなかでただ一人、日本代表経験のないHO。その分、トップリーグの熾烈な順位争いは、上野自身のジャパンに向けた猛烈なアピールの場であると言うこともできる。
だが……。
「いや、確かにみんなジャパンや元ジャパンですけど、それを意識することはないですね。それよりも、対面が同級生や学年が近いので、そういう点で負けたくない。自分なりにトイメンに負けずにやれているイメージはあります」
入社して3年目。昨シーズンからポジションを取ってコンスタントに試合に出続けているが、上野が今集中しているのが、自分の課題を克服することだ。
「マイボールのラインアウトを100%獲得できる安定感。ボールを持ったときの球出し。ワークレートを上げること……やることはまだまだたくさんあります」
東芝戦の後も、喜びに浸る暇もなく元ワラビーズのスティーブン・タイナマンFWコーチから「これからビデオでレビューするから、覚悟しとけ」と声をかけられた。
「指摘されているのはタックルですね。きちんと頭を上げてタックルに入っているか。レッグドライブして(タックルした後で足を掻いて)倒しているか。細かくチェックされて、だいぶ基本ができるようになってきました」
一方で、ミスを恐れずにプレーする大切さも知った。
「ミスが出るのは、それだけプレーに参加している証拠。ミスをしないようにプレーの質を高めるのはもちろん大切ですが、同時にプレーに参加する量も上げていかないといけない。今はプレーしていて楽しいし、必死にプレーする時間もどんどん増えている。夢中になると、声がかれるまでいろいろ叫び続けているんです」
まさに今、ブレイク前のつぼみが膨らんだ状態にいるのかもしれない。
今季は母校の明治大学が、対抗戦の優勝こそ逃したものの大活躍をしている。早明戦は寮でテレビ観戦だったが、こちらも声がかれるまで声援を送った。現在の4年生は、ちょうど上野がキャプテンを務めたときの1年生なのである。
「それを思うと、なんかすごく早く時が経ったような気がします」
キャプテンを務めたときの明治大学は、早明戦に大敗しながら大学選手権ベスト4に到達。当時の今頃は、毎日毎日頭が痛くなるぐらいチームやラグビーのことを考え続けた。
そして今、それらの経験を糧にしながら、上野は熾烈な4強争いの日々を楽しんでいる。
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マリー・ウィリアムス
(豊田自動織機シャトルズ)
◇真面目さが支える抜群の戦術眼
マリー・ウィリアムス◎オークランド大学→ワイカト・チーフス→ベイ・オブ・プレンティ→豊田自動織機シャトルズ。SO。180cm、86kg。28歳 |
蹴って良し、走って良し、パスを投げて良し……の三拍子そろったSO。と言ってしまうと月並みだが、マリー・ウィリアムスの場合、それらを際立たせているのが卓越した戦術眼だ。
グラウンドに立つ選手は、相手と同じ平面にいるためスタンドから見るようには相手の穴が見えにくい。しかし、ウィリアムスには見えている。少なくとも、そのように見える。まるでスタンドに陣取った首脳陣からの指示を、密かに隠し持ったインカムで受けながらプレーしているようだ。
「それは相手の分析やいろいろな情報をインプットしているから。そういう情報が頭に入っているから、前を見て相手の動きに応じた仕掛けができるんだ」
こともなげに言うウィリアムスだが、連続攻撃のなかで相手防御にわずかに生じたギャップに迷うことなく走り込み、局面が停滞すれば相手の背後に嫌らしいキックを蹴り込む。そして、相手のマークが自分に集中するや、防御を引きつけるだけ引きつけて、走り込んできた味方に柔らかくパスを通す。そんなプレーぶりは、スーパー14のワイカトチーフスやNPCのベイ・オブ・プレンティでプレーしたニュージーランダーというより、日本的なテイストが漂う。
公称で身長180cmだが、間近で見ればそれよりも小柄に感じる。
つまり、若い日本人SOたちがお手本にすべきプレーヤーなのである。
真面目さも折り紙付きだ。田村誠監督が言う。
「ミーティングで相手がこう動くからこういうキックを使おうと話しても、選手は"わかりました"と言うだけで、どこまでわかっているのか心配になる場合が多いんですけど(笑)、マリーは別。ミーティングで言われた通りのキックを、一人残ってずっと練習している。細かいところまでミーティングの内容を聞いているんだ、と感心します」
ニュージーランドでは、代表経験はなし。来年6月には居住が3年を超えて日本代表資格も手に入る。つまりW杯には十分に間に合うのだが……。
「いや、今は代表のことなんか考える余裕はない。JK(ジョン・カーワン日本代表ヘッドコーチ)とも1対1で話したことはない。それよりもチームのために良いプレーをすることに今は集中している。ジャパンに選ばれるかどうかなんてわからないけど、もしそういうことがあるなら、それは僕が良いプレーをした結果であって、別にジャパンを狙ってプレーしているわけじゃないよ」
コメントも、あくまでも真面目なのである。
チームは現在14位とリーグ残留の危機。残り4試合でどこまでチームに貢献できるか、すでにウィリアムスは胸のなかにターゲットを思い描いて準備に余念がない。
チームが昇格1年目の壁を突破できるかは"小柄な"10番にかかっている。