正面をSO、グラント(写真中央)をFBに固定してからBKラインがよく動くようになった神戸は再開後の初戦でNECと対戦 |
1ヶ月のウィンドウマンスを終えて27日から再開されるトップリーグ第8節は、熾烈な5位争いに注目。何しろ現在5位の近鉄ライナーズ(勝ち点20)から9位のリコーブラックラムズ(同17)まで、5チームがわずか「3」の勝ち点差にひしめいているのだ。
この激烈な順位争いからの脱落が、プレーオフ進出条件「4位以内」からの脱落を意味する以上、各チームとも"負ければ終わり"の覚悟で臨んでくる。
なかでも6位(勝ち点19)神戸製鋼コベルコスティーラーズ対8位(同18)NECグリーンロケッツの"直接対決"(28日 千葉・柏の葉公園総合競技場13時キックオフ)は、結果がそのまま順位のアップダウンにつながるサバイバルマッチだ。
神戸は開幕戦こそ勝ったものの、天候にもたたられて第4節まで3連敗。そこから奮起しての3連勝で順位を上げたが、浮上の要因はアジア競技大会の男子7人制金メダルの原動力となった正面健司をSOに据えたこと。これでバックスラインのコミュニケーションが活性化した。
対するNECは開幕戦でヤマハ発動機ジュビロに敗れたのが響いて、第3節でサントリーサンゴリアスを破りながら"4勝3敗グループ"にいる。今季は試合の前半にトライを重ねながら後半に追加点を奪えないケースが多く、なかなかボーナスポイントを伸ばせない。
攻撃力の高い神戸と堅守のNECという図式は例年通りだが、逆に言えば神戸の防御力とNECの攻撃力の力関係が、実際の勝負を分けそうだ。結果は果たして?
トヨタの修正力に注目
今節のもう1つの注目カードはリコーブラックラムズ対トヨタ自動車ヴェルブリッツ(27日秩父宮 12時キックオフ)だ。
開幕戦でサントリーを破ってスタートダッシュに成功したトヨタだが、10月に入ってNTTコミュニケーションズシャイニングアークスに敗れて勢いにやや陰りが出た。第7節でも近鉄ライナーズに敗れ、サントリーに抜かれて4位にいる(勝ち点25)。
「結果に一喜一憂せずに高いレベルを目指す」朽木泰博監督の方針のもと、ウィンドウマンスでどこまで修正を果たしたかが、このリコー戦で問われる。
一方のリコーも、プレーオフ進出の可能性を残すにはもはや負けられない状態。スティーブン・ラーカムは出場しないが、代わってFBに入るタマティ・エリソンは6、7節の2試合で計4トライを奪う好調ぶりを見せており、どんなかたちでトヨタDFを破るのかにも注目したい。
トヨタを抜いて3位に浮上したサントリーは、リコー対トヨタ戦の後で秩父宮に登場(14時キックオフ)。今季初昇格ながら混戦を演出してきたNTTコムと対戦する。
エディ・ジョーンズ監督のもとで取り組んでいるアタッキングラグビーは、シーズンの深まりとともに定着し、爆発的な得点力でトライを量産。それが勝ち点を大きく伸ばす要因となった。
開幕当初は走りにいつものキレがない感じもあったエースWTB小野澤宏時もシーズンの深まりとともに調子を上げ、第7節のヤマハ戦ではハットトリックを達成。NTTコム戦でもトライを重ねて、個人タイトル(トライ王)争いでも独走態勢に入りたいところ。
27日の近鉄花園ラグビー場の第1試合(12時キックオフ)、ヤマハ発動機ジュビロ対福岡サニックスブルースもシーズン後半の行方を占う大事な一戦。
ボールを大きく動かすサニックスに、ウィンドウマンスでディフェンスを修正したヤマハがどう対抗するか。2勝しながら勝ち点9で12位と下位にいるヤマハの奮起に期待したい。
NECはDF力で神戸の攻撃を食い止められるか(写真は東芝NO8望月にタックルするLO熊谷)。"3敗組"にとって1敗もできない試合が続く |
現在4位のトヨタは秩父宮でリコーと対戦。日本代表主将のNO8菊谷をはじめ個々の卓越した力をいかにチーム力として集約するかがポイントに |
トヨタ同様、2敗のサントリーも後半戦は秩父宮スタート。仕事人の多いNTTコムに対してFW戦で上回れるかも勝敗の分かれ目に(写真はHO青木、PR尾崎=左) |
望月雄太
(東芝ブレイブルーパス)
◇"独走男"の本懐
望月雄太(もちづきゆうた)◎桐蔭学園→同志社大学→東芝ブレイブルーパス。LO/FL/NO8。184cm、105kg |
1月24日、秩父宮ラグビー場。トップリーグ09-10、プレーオフセミファイナル。
前半を7-21とリードされた東芝ブレイブルーパスは、後半開始直後に飛び出したビッグプレーで息を吹き返して決勝へと勝ち上がり、そのまま王座に就いた。そのビッグプレーこそが、自陣10mライン付近から一気に60mを走りきった望月の独走トライだ。
そして今シーズン。
第4節のNECグリーンロケッツ戦で望月はふたたび60メートル独走トライを挙げ、翌週のヤマハ発動機ジュビロ戦でも、約20メートルと短距離ながら独走トライを披露した。
今季は主にNO8を務めるが、もともとはLO。本来なら独走とは縁遠いポジションなのに、なぜ望月は独走できるのか?
「優れたフットボーラーなんですよ。独走できるのは走り方や足の運び方を研究しているから。あまり目立たれると"コンチクョー"と思いますが(笑)、今季から急にNO8になっても違和感がない。それだけすごいプレーヤーですね」
と話すのは、昨季までLOでコンビを組んだ大野均。
望月本人は、研究を重ねた理由をこう話す。
「試合に出られるなら、ポジションにこだわらないのが僕のこだわり。一昨年LOで出られることになったとき、僕はLOとしては小さいからオリジナリティを持とうと考えたんです。いろいろ試行錯誤して、今は4人目のバックローというつもりでプレーしています。"なんでも屋"とも言われますが、なんでもできることは悪いことではないでしょ(笑)?」
ただ、独走ばかりにスポットライトが当てられることには違和感がある。
「相手よりも早く味方をサポートして素早く防御の裏に出る。そんなプレーが好きです。同じNEC戦でも、独走よりラックの真ん中を割ったトライの方が、本来の自分らしいですね」
チームは、開幕戦で三洋に敗れた以外は連勝街道をばく進中。望月も、独走以外は、痛い仕事に身体を張り、球際に汗を流して、ひたすら地道にチームを支えている。
11月には日本代表に選ばれるのでは……という見方もあったが、残念ながら望月は選に漏れた。しかし、盟友・大野は「いっしょにジャパンで試合に出られたら最高ですね」と賛辞を惜しまない。
来年のW杯メンバー入りを目指して、望月の後半節は熱くスタートする。
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李 明根
(クボタスピアーズ)
◇"韓流"SHの負けじ魂
李明根(リ・ミョングン)◎裡里工業高校→延世大学→テシム通商→三星SDI(以上韓国)→ワールド→クボタスピアーズ。SH。170cm、73kg。韓国代表キャップ12/7人制韓国代表
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ピッチに立つフィフティーンのなかで最も小柄な選手が務めることが多いSHには、負けず嫌いの選手が顔を揃える。
大男がひしめくFW同士のボール争奪戦の最前線に位置して、ときにはのしかかるようにブチかましに来る相手を倒す宿命を背負う以上、そんな性格の持ち主でなければ当然務まらない。
別名「9人目のFW」は、そんなSHの特質をよく表している。
李明根も、典型的な負けず嫌いのSHだ。
高い身体能力を活かした素早いボールさばきと激しくしつこいディフェンスは、かつて日韓がアジアの盟主を激しく争っていた時代の韓国代表SHたちを彷彿とさせる。
今季前半節を終えて13位と不振にあえぐクボタにあっても、それは変わらない。
第7節の東芝ブレイブルーパス戦では前半3分に東芝の防御を破って先制トライをアシスト。19-33と引き離された後半30分にも、相手のチップキックを好捕してすれ違い、あわやトライという場面を作り出した。
チャンスとピンチを嗅ぎ分ける鋭敏な嗅覚が、李の真骨頂なのである。
「自分がもっと頑張れば、チームはもっと良くなる。そう信じています。トップリーグのSHはレベルが高いし、三洋電機ワイルドナイツの田中(史朗)さんはいいSHだと思う。でも、相手が誰でも絶対に負けたくない。いつもそんな気持ちでプレーしています」
他チームに在籍する韓国人選手との対戦も、李の負けず嫌いを刺激する。
「韓国のラグビー界は人数が多くないからみんな知り合いで仲がいいんですけど、試合は別。いつも真剣勝負をしています」
心がけていることはディフェンス。プレーする上での信条は「SHの仕事は2線防御」だ。
李は、その"仕事観"をこう話す。
「いいパスを放れるかどうかはSHだけでは決められない。FWがいい仕事をしてくれて初めて、SHはいいパスを放れるし攻撃のテンポも良くなる。リズムが良くてもそれはFWのおかげなんですよ。だから、SHが自分1人でできる仕事はカバーディフェンスだと思う」
27日の後半節開幕戦は首位の三洋が相手。降格圏を脱出するためにも、李にはフル回転の仕事ぶりが求められる。
そして、李の負けじ魂こそが、シーズン後半に浮上を期すチームのカンフル剤なのである。