開幕節、第2節と、昨季の下位チームが健闘したことで、14チームの実力が戦前の予想以上に接近していることが明らかになった。第3節も勝敗予想の難しいカードが並んでいる。注目カードを軸に見どころをプレビューしてみよう。
金曜日(17日)の秩父宮のナイターでは、前節、王者・東芝ブレイブルーパスを追いつめたNTTコミュニケーションズシャイニングアークスがトップリーグ初白星を狙う。対するは、連敗スタートとなったクボタスピアーズ。NTTコムは、東芝を苦しめた粘り強いディフェンスに加え、SO君島良夫の正確なプレースキック、FBマーク・ジェラードのインターナショナルクラスのカウンターアタック、ロングタッチキックなど飛び道具を持つ。クボタとしては、正確なプレーを心がけボールをキープして攻めたい。簡単にボールを渡してしまうと、NTTコムの多彩な攻撃力に苦しむことになりそうだ。
いまひとつ調子の出ないサントリーサンゴリアスは、北海道の月寒でNECグリーンロケッツとの戦い(19日)。サントリーのアタッキングラグビー対NECの鉄壁のディフェンス。倒されずに前進するか、倒しきるか。タックル地点の攻防が面白い試合になる。
愛知の瑞穂ラグビー場では、前節、福岡サニックスブルースに敗れた神戸製鋼コベルコスティーラーズが好調トヨタ自動車ヴェルブリッツと対戦。サニックスと打って変わって、パワフルに縦に切り込んで来るトヨタを堅実なタックルで仕留められれば神戸製鋼にも勝機がある。
そして、「走り勝つラグビー」で常に観客を楽しませる福岡サニックスブルースが今季初めて秩父宮ラグビー場に登場。相手ディフェンスを真ん中に集めて外側のスペースを攻めるチームが大半の中で、相手を横に広がらせて、すき間を走り抜けるサニックスのスタイルは新鮮だ。必見。
◆ヤマハ発動機の熱は三洋電機も飲み込むか?
連勝スタートという数字だけでなく、内容でも他を圧倒する強さを見せつける三洋電気ワイルドナイツがヤマハ発動機ジュビロの挑戦を受ける。今節一番の注目カードだろう。
昨秋、部の強化方針に変更があり、多くの選手が他チームに移籍。36名というリーグ最少の選手数ながら固い結束力を見せるヤマハ発動機は、いま最も熱いチーム。FL串田義和キャプテン、元オールブラックスのNO8モセ・トゥイアリイらが懸命に身体を張り、副キャプテンのFB五郎丸歩が攻守に大車輪の活躍でチームを牽引している。
ひとつ見どころをあげるなら、「エリアマネージメント」ということになる。相手陣の攻めやすいポジションでいかに長く戦えるか。三洋電機の鉄壁の防御はそう簡単には崩れない。ヤマハとしては、できるだけ相手陣で戦い、得点王争いで断トツのトップに立つ五郎丸のPGでスコアを重ねたい。キックで地域を獲るという点では、三洋のトニー・ブラウン、入江順和らのキックを五郎丸がどう切り返すかも注目である。
ただし、三洋はタックル後の争奪戦で無理をせず、反則をしないチーム。反則を誘うにはアグレッシブに前に出る必要がある。「三洋には胸を借りるつもりでぶつかりたい」と串田キャプテン。彼を筆頭にヤマハは激しく突進を続けるだろう。そして三洋電機は簡単には下がらない。見ていて胸の熱くなる攻防になるはずだ。
前節、王者・東芝を追いつめたシャイニングアークスは、接点での 激しさと多彩な攻めでトップリーグ初白星を狙う(写真はCTB山下) |
トヨタに完敗した後、リコーにも辛勝。サントリーのアタッキング ラグビーは札幌で開花するのか(写真はSHグレーガン) |
"熱い結束力"で快進撃を続けるヤマハ発動機は、圧倒的な強さをみせる三洋電機にチャレンジする(写真は大黒柱SO大田尾) |
カーン・ヘスケス
(福岡サニックスブルース)
◇トップリーグ史上最大の衝撃! ヘスケスの突進を見逃すな
カーン・ヘスケス◎ネイピアボーイズ高校→オタゴ大学。オタゴ州代表でプレー。今季より福岡サニックスブルース入り。1985年8月1日生まれ。178cm、98kg
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第1節、第2節と後半だけの出場ですでに3トライである。腰が地面に届きそうな低さでステップを踏み、タックラーを弾き飛ばし、捕まったと思ったらスピンしてまた前に出る。ディフェンスには絶対の自信を持つ大畑大介選手をして「トップリーグで感じたことのない衝撃」と言わしめた。
カーン・ヘスケスとはいったい何者なのか。ラグビー王国ニュージーランドで当然のように5歳からラグビーを始めた。2006年からオタゴ州代表でプレーし、35試合に出て14トライ。タックルを外して前に出る能力は州代表レベルでもトップの数字を残していた。第2節の神戸製鋼コベルコスティーラーズ戦では、後半から投入され、そのキックオフでいきなりタックルをかいくぐっての約50m独走を披露。観客の度肝を抜いた。
「逆転したいという気持ちしかなかった。プレーする時間は40分と限られていたから、ほんの少しでも時間をロスしたくなかった。だから、すぐに走ったんだ」
オタゴボーイズではラグビーと並行して陸上競技の走り幅跳び、三段跳びでも才能を発揮。本人の記憶では15歳の時に、走り幅跳びで6m83㎝、三段跳びで13m以上の記録がある。「日本のラグビーはペースが速くてそれについていくのが大変。でもラグビーはわくわくしながらプレーするもの。他の選手もそういう気持ちでプレーしてほしいね」。
ゴムまりのようなバネで突進する好漢。トップリーグの新しいスター誕生である。
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正面健司
(神戸製鋼コベルコスティーラーズ)
◇プレーの場を得て生き生きと走る天才プレーヤー
正面健司(しょうめん・けんじ)◎東海大仰星高校→同志社大学→トヨタ自動車→神戸製鋼コベルコスティーラーズ。SO/WTB/FB。1983年5月1日生まれ。
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1勝1敗のスタートとなった神戸製鋼コベルコスティーラーズの中にあって、非凡な才能をいかんなく発揮しているのが正面健司だ。初戦のクボタスピアーズ戦では、正確なタッチキックと、左右に正確に繰り出す判断のいいパスで何度もチャンスを作り、第2節の福岡サニックスブルース戦では、開始早々、俊足を飛ばして先制トライを奪ってみせた。
古い話になるが、彼を一躍全国区にしたのは、1999年度第79回全国高校大会でのプレーだった。東海大仰星の1年生WTBは、埼玉工大深谷(現・正智深谷)との決勝戦で前半27分、70mの独走トライを決めて初優勝の原動力となったのである。
身体能力は先輩の大畑大介以上と周囲は評価。同志社大では1年生時に日本代表入り。19歳5か月の若さで代表キャップも獲得した。トヨタ自動車では仕事との両立を目指していたが、ラグビーに集中する環境を求めて一念発起の退社だった。
昨年5月、神戸製鋼入りを発表。移籍規定により、1シーズン公式戦出場が不可能なのも承知だった。当時のラグビーマガジンのインタビュー記事には、「意義ある1年にしたい。来年、必ず成長した姿を見せられるように頑張ります」とコメント。現在は、その言葉通りの活躍である。野球で投手をすれば両手で投げられるというほどの器用さである。そのしなやかなプレーをぜひ競技場でご覧あれ。