9月3日、トップリーグが開幕する。
今年も”聖地”秩父宮でのフライデーナイター、しかも昨季ファイナルで優勝を争った東芝ブレイブルーパス対三洋電機ワイルドナイツという贅沢すぎる組み合わせで、10〜11年トップリーグ・シーズンはスタートする。
都心・青山のサマーナイトを熱く彩る、絶対見逃せない開幕ゲームを、ラグビージャーナリストの村上晃一氏が斬る──。
日本ラグビーを引っ張る「2強」の対決である。スピード、パワー、キックの飛距離、パスの素速さ、激しいタックル、すべてが日本最高峰の試合だ。見逃す手はない。
昨年の開幕戦で顔を合わせた時は、24-18で三洋電機ワイルドナイツが勝利。上位4チームで行われたプレーオフ決勝では、東芝ブレイブルーパスが6-0で三洋電機を下して優勝している。両者の実力は接近しており、今年の開幕戦も予断を許さない。
リーグ三連覇を目指し、春から連戦連勝でひた走る東芝は、7月、ニュージーランドの強豪ワイカト州代表にも快勝。タックルを受けても倒れずに前に進む「スタンディング・ラグビー」への自信を深めた。昨季のリーグMVP大野均は相変わらずの運動量と俊足で走り回り、あくなき突進を何度も続けるFLスティーブン・ベイツとともにFW陣を引っ張る。昨年の開幕は怪我を抱えていたゲームメイカーのSOデイビッド・ヒルも完調で、「なんの不安もない」と瀬川智広監督は自信の表情を浮かべる。
一方、三洋電機もCTB霜村誠一キャプテンはじめ、LOダニエル・ヒーナン、SOトニー・ブラウンなど主力選手が万全のコンディションで、飯島均監督が自信を持って「開幕戦は勝ちます」と宣言する仕上がりの良さだ。
見どころを端的に書けば、「東芝が攻めきるか、三洋が守りきるか」、ここに尽きる。鉄壁の三洋ディフェンスを、東芝のスタンディングラグビーが打ち破るのか、三洋が止めきって得意のカウンター攻撃で切り返すのか。攻守が瞬時に入れ替わってトライが生まれる、一瞬たりとも目の離せない戦いになる。
◆ブレイクダウンに注目
ボールを持った選手がタックルされ、そこで起こるボールの奪い合いを総称して「ブレイクダウン」と呼ぶ。現代ラグビーの勝敗を握る鍵になるプレーだ。
今季は、相手を倒した時、倒れた選手がボールを味方側に置いたり、パスする時間を一瞬与えることがタックルした側に求められる。観戦していると、タックルした選手がいったん手を放すような動きが見られるはずだ。これにより、攻撃側がボールを確保しやすくなり、よくボールがスピーディーに動くことが期待される。つまり、防御側は相手ボールを手で奪うのが難しくなる。
そこで東芝は割り切った。瀬川監督は「ボールを獲りに行かずに、立って乗り越える」ことに決めた。ボールを乗り越え、味方側に残すように前に出るという意味である。対する三洋の霜村キャプテンは、「ルールのことはあまり気にせず、ボールを奪いに行きます」と言った。東芝が乗り越えるか、三洋が手でボールを確保するのか。タックル直後の戦いにも両者の特徴が出るだろう。
昨季トップリーグタイトルを争い合った2強がいきなり激突。プレーオフでは東芝が勝ち2連覇を達成(写真)。逆に1年前の開幕戦では三洋が勝利を収めている |
ブレイクダウンで上回ったチームが開幕戦の勝者に? まずは接点での激しくかつ巧妙なバトルに要注目だ |
コンディション万全の三洋電機の指令塔SOブラウン(右)がどんなゲームメイクを見せるかも、勝敗を分ける鍵となりそうだ |
廣瀬俊朗
(東芝ブレイブルーパス)
◇キャプテンの中のキャプテンに注目
廣瀬俊朗(ひろせ・としあき)◎北野高校→慶應義塾大学→東芝ブレイブルーパス。WTB。1981年10月17日生まれ。173cm、81kg。日本代表キャップ1
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8月30日、開幕直前に開催されたプレスカンファレンスでのスピーチは立派だった。「選手の人間的魅力も上げていきたい。自然を大切にする、身の回りを清潔にする、力の弱い人を守る、というような地道なことを、ラガーマンが当然のようにできるようになっていく。それがラグビーのプレーにもつながると思いますし、そんなトップリーガーが集まったラグビーはきっと面白いし、魅力的だと思います」
大阪府立北野高校から慶應義塾大学理工学部に進んだ。研究者の道を考えたこともあったが、ラグビーと仕事の両立を目指して東芝に入社。現在は、電機応用パワエレシステム開発部に勤務する。ラグビーのポジションは、WTB(ウイング)。基本フォーメーションの両翼に位置してトライを決めるのが主な仕事だが、廣瀬は常に動き回って相手を攪乱するタイプ。自分の動きに対する相手チームの反応を見ながら、次に何を考えているかを読み解き、チームメイトに指示を出す。
三洋電機の霜村誠一キャプテンとは、同学年で仲も良く、会えば冗談を言い合う間柄。「開幕戦はスコアの勝ち負けより、中身で勝負。トップリーグって面白いなって思ってもらえる試合がしたい」。トップリーグ全体の発展を願う廣瀬キャプテンのプレーとリーダーシップに注目しよう。
大畑大介
(神戸製鋼コベルコスティーラーズ)
◇世界記録保持者の最後のシーズンを目に焼き付けよう
8月31日、リーグ開幕直前の引退表明だった。「3月に現役続行を決めた時から、今季が最後になると腹をくくっていた。シーズンを前に去就をすっきりさせておきたかった」。日本ラグビーを牽引してきた大畑大介(34歳)の潔いコメントだった。
大畑大介(おおはた・だいすけ)◎東海大仰星高校→京都産業大学→神戸製鋼コベルコスティーラーズ。WTB。1975年11月11日生まれ。176cm、85kg。日本代表キャップ58 |
サイン色紙には「為せば成る」と書くのが常だ。大阪のラグビースクールで楕円球に出会い、東海大仰星高校、京都産業大学と進んだ。当時の仰星高校は、まだ全国大会出場すら果たしていなかったのに、学校の上履きには「目指せ!全国制覇、目指せ!高校日本代表」と書いた。
高い目標を設定し、そのために血のにじむ努力を飄々とこなすのが真骨頂。全国制覇は大畑の卒業後に達成されたが、高校日本代表には選出され、大学3年時には日本代表デビュー。鍛え上げた足腰を武器に爆発的な加速でトライを重ねた。スピードで世界に通用する希有な日本人選手である。テストマッチ(国代表同士の試合)での69トライは、今も世界記録だ。
2007年のワールドカップ、フランス大会までには両足のアキレス腱を断裂する不運に見舞われたが、驚異的な回復力で現役を続けてきた。引退が噂されるたび、「応援してくれる人がいる。期待に応えたい」と、ファンを大切にする彼らしさでフィールドに立ち続けた。しかし、その後も肩の骨折など怪我が相次ぎ、年々コンディションの調整が難しくなっていた。
足は今も万全ではない。「100%で走れない。100出せば(腱が)切れてしまうから」と自分を抑えながらのプレーが続く。それでも瞬時の加速力はトップリーグ随一である。今季の神戸製鋼コベルコスティーラーズでは、背番号13、14など複数のポジションでプレーすることになりそうだが、大畑大介のこと、公式戦のフィールドに立てば、いつ壊れてもかまわないというプレーを披露するだろう。だから観る側も、最後のシーズンを駆け抜けるトライゲッターのプレーを、一つ一つ目に焼き付けなくてはいけない。彼の足跡に思いを馳せながら。