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ラグビーのみかた。ここを見るとラグビーは面白い──その8:キック

ラグビーのみかた。ここを見るとラグビーは面白い

text by Koichi Murakami

その8:キック

キックといってもその種類はさまざま。ラグビーは、「フットボール」という競技から、サッカーとラグビーに枝分かれしたスポーツだ。元々のフットボールは、手でボールを扱うことができたが、ボールを持って走ることはできなかった。「トライ」とは、ゴールを蹴る権利を得るものだったという。あのH型のゴールポストを狙うプレースキックはラグビー発祥の昔から行われていた。

ラグビーを楽しむために知ってほしいのは戦略的キックだ。例えば、タッチライン際の選手の前にキックし、そのボールを捕ってそのままトライを狙うものがある。キックによって味方を走らせるプレーは、手と足が両方使えるラグビーの多様性を示すもので、観客席を沸かせる。

なぜキックによって味方を走らせるのかといえば、ディフェンスのいないスペースに素早くボールを動かせるから。手によるパスは正確性が高い反面、スピードが遅い。一人一人が順にパスをつないだら間に合わないような場所にディフェンスの穴があったら、そこに思いきりよくキックし、味方を走り込ませるほうが得策なのだ。その場合のキックも、ライナー性、山なりのもの、地面を這うように転がる「グラバーキック」などなど状況によってさまざま。キッカーには、味方の走力とディフェンス側の位置を瞬時に把握して、ボールに緩急をつける技能が求められる。

戦略的キックを担当するのは、主に9番を背負うSHと、10番のSO。9番は、FWの背後から天高く上がる「ハイパント」を多用し、味方が競り合えるような位置にボールを落として、再び味方ボールにするか、相手がキャッチしてもすぐに倒せる位置に蹴るようなキックが多い。さまざまなキックを使うのは主に10番だ。

キックについて最低限しておかなくてはいけないルールがある。まずは、「ダイレクトタッチ」のルールだ。両軍の陣地には、H型のゴールポストからフィールド中央に向かって22mのところに「22mライン」が引かれている。この線の後ろからタッチラインに向かってボールを蹴ったときは、タッチラインをボールが横切った地点でのラインアウトになるが、22mラインより外(ハーフウェイライン寄り)から蹴ってダイレクトでタッチに出すと、蹴った地点に戻されてラインアウトになる。その前に地面でワンバウンドしたり、選手に当たって出たりするのは、ダイレクトタッチにはならない。

もう一つ知っておきたいルールは、キックは前に蹴ってもいいが、追いかける人は、キッカーの後ろから走りださなくてはいけないということ。前にいる人が走ると「オフサイド」になる。よく、キックの応酬の真ん中でどうしようもなく突っ立っている選手を見かけるのはそのため。キッカーの前にいる選手はボールの落下地点から10m下がるというルールもある。こうしたルールを前提に、キックの応酬は行われる。ただ単にタッチの外に蹴りだせば、相手ボールのラインアウトになるので、相手陣深くまっすぐに蹴り込んで、相手に出させるように仕向けたり、相手とぎりぎり競り合えるように位置に蹴ってもう一度ボールを奪ったり、攻撃する地域を前進させるためにさまざまな工夫でキックが使われている。

グラバー(地面に転がすキック)でも、右にカーブするものと、左にカーブするものがある。総称して「バナナグラバー」と呼ぶ。ディフェンスラインの背後にスペースがあり、そこに右タッチライン際にいる選手が走り込むのが有効な場面なら、右バナナグラバーを蹴れば、ボールは走り込む選手に吸い込まれるような軌道で転がる。逆ならば左カーブを使う。陣地を大きく稼ぐには、アメリカンフットボールのパスのように回転をかけた「スクリューキック」が飛距離は出るが、まっすぐにコントロールしたいキックであれば「ドロップパント」と言って、ボールの先端を蹴って、縦に回転するボールを蹴ったほうが正確性は高くなる。

上手いSOは、わざと風船のようにふわりふわりと落ちてくる無回転のボールを蹴りあげて、キャッチする選手を惑わせる。落球した選手を叱るより、捕りにくいボールを蹴った選手を褒められるようになれば、観戦者として階段を上がったかも。選手たちが状況判断しながら種々のキックを使い分けていることにも注目してはいかがだろう。

W杯NZ大会での日本代表WTB小野澤のキック
W杯NZ大会での日本代表WTB小野澤のキック
photo by Kenji Demura (RJP)



2011年12月23日

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