その6:パス
ボールを手で持って運ぶことができるのは、ラグビーの最大の特徴のひとつ。ボールを持った選手には、そのまま走るか、ぶつかるか、味方にパスするか、前にキックするか、さまざまな選択肢がある。相手が誰もいなければ走ればいいが、たった一人でディフェンスラインを突破するのは難しい。自分の前にタックラーがいたら、味方にパスすれば簡単に前進できることもある。多くのラグビー選手の選択肢は、まず自分で走る、ダメなら味方にパスするという順序だ。
相手のいないスペースにボールを動かしてトライを奪うために、パスは絶対に必要な技術。初心者のラグビー講習会でも、最初に習うのはパスだ。パスはその人の性格が表れるとも、言われる。ボールを受ける側のことを、思いやって、捕りやすいボールを丁寧に投げる選手、ぶっきらぼうに強めのパスを送る選手などさまざま。適当にパスして、パスを受けた選手が思いきりタックルされる、なんてシーンもよくある。これ、ラグビー業界用語で「ホスピタル・パス」と言う。
楕円球が選手の手から手へと次々に渡り、そのパスにスピードをつけて走り込んだ選手がスパッと抜け出すと、見ているほうも爽快感がある。最近は、遠くにいる味方に素早くボールを送るために、キックを使う「キックパス」も多用されるが、手によるパスがたくさん成功したトライは、次第に高まっていく観客席の興奮もあって、何度見ても魅力的だ。
パスにもさまざまな種類がある。ボールに回転をかけず、近くの味方選手にボールを送る「ストレートパス」。ボールを回転させてスピードと飛距離を伸ばす「スクリューパス」(スピンパスとも言う)、背中越しに投げる「バックフリックパス」などなど。最近の日本代表がよく練習していた「パンチパス」もある。ボールを投げる際に思いきり振りかぶって投げると、相手に読まれてしまうので、体の近くからパンチするように投げるパスのことだ。
パスでもっとも大切なことは、受けた側が捕りやすく、走りやすいボールを投げること。後ろから走り込んでくる選手のスピードを落とさせず、キャッチした瞬間にディフェンスラインの裏に抜け出せるようなパスが理想だ。もし、横の味方の前にタックラーがいて、その次の選手の前にスペースがあいていたら、すかさず「飛ばしパス」を使う。でも、もし、横の選手の前にいるタックラーがあまり前に出てこなければ、順番にパスして一人ずつタックラーを引き付けたほうがいい。こんなふうに、相手の出方を見て使い分ける。こうした状況判断の優れた選手は、パスを出すタイミング、ボールのスピードをコントロールしながらディフェンスを翻弄する。
0.1秒、パスのタイミングが遅れるだけでトライは生まれない。優れたパッサーを探してみよう。「あの人のパスは優しいから好き」なんて言えるようになったら、「通ですねぇ」と言われること請け合い。次に見る試合では、パスのクオリティにご注目を。
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W杯で素早いパスさばきが高い評価を受けた日本代表SH日和佐
photo by Kenji Demura (RJP) |
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