その4:ブレイクダウン
勝負の分かれ目になるボール争奪戦
ここ数年、コーチや選手からよく聞こえてくるのが、「相手はブレイクダウンが激しかったです」とか、「ブレイクダウンで勝負が決まったと思います」などなど、ブレイクダウンという専門用語である。
ラグビーという競技は、相手からボールを奪うことで攻撃を始められるので、グラウンドのいたるところでボールを奪い合っている。それがあの肉弾戦だ。ボールが地面にある状態で押し合っているのを「ラック」と言い、ボールを持った状態で組み合っているのを「モール」と呼ぶ。ブレイクダウンは、それも含めて、タックルが成立したあとのボール争奪戦を総称する言葉だ。
現代ラグビーは、「ブレイクダウンが勝敗を分ける」と言われるほど、重要なものだ。たとえば、ボールを持った選手がタックルで倒されるとする。そこに、そのボールを奪おうと両チームの選手が殺到する。攻撃側はこのボールを素早く出して、相手のいないスペースにボールを動かしたい。もし相手がブレイクダウンに5人でやってきて、攻撃側が2人でボールを出せたら、攻める人数で上回ることができるからだ。
でも、相手選手が激しくボール絡んでくると簡単には出せないから停滞した状況になる。ほんの少しボールを出すタイミングが遅れるだけで、相手のディフェンスラインは整い、攻撃するスペースがなくなってしまう。つまり、ブレイクダウンとは、テンポよく攻撃したい攻撃側と、そのテンポを遅らせ、あわよくばボールを奪って逆襲したい防御側の戦いなのだ。そして防御側がボールを奪った瞬間、攻守は入れ替わり、また同じことが繰り返される。
覚えておいてほしいルールがある。タックルが成立したら、倒された選手も倒した選手もいったんボールから手を離さないといけない。そして、寝ている選手はプレーできないし、お互いが組み合ってラックができてしまったら、その中のボールを手で扱うこともできない。このルールがあるから、ボールの上では、相撲の立ち合いみたいなぶつかり合いが繰り返される。ボールを乗り越えて、味方に出そうとしているからだ。
攻撃側にとって理想的なブレイクダウンはボールを持った選手が相手につかまりながらも前進し、それに次の選手が押し込みながらボールを出すこと。ディフェンス側は下がりながらのプレーになるので、タックルにも勢いが出ない。逆にディフェンス側はボールを持った選手を押し戻し、乗り越え、ボールを奪えば大成功。
数えきれないほど起きるブレイクダウン。よく見ていると身のこなしが上手い選手、当たりの激しい選手、地面のボールを奪うのが素早い選手と、いろんな特徴ある選手を見つけることもできるだろう。次の観戦時には、ブレイクダウンに注目してはどうだろう。
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ブレイクダウンでボールを奪い合う日本代表とトンガ代表(W杯NZ大会より)
photo by Kenji Demura (RJP) |
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